翻訳者に必要な能力とは?

ワナ美ちゃん
Anyaちゃん、私翻訳がやりたいけど、TOEICや英検ってどのくらい必要なの?
Anya
国家資格職じゃないんで資格は一切必要ないよ。
ワナ美ちゃん
え、そうなんだ?!でも求人情報にはTOEIC○点以上の人って書いてあることあるよね?
Anya
それはそのレベルと同等以上の英語力があれば問題ないってだけだよ。

というわけで…意外と翻訳業に語学力は重視されません。今回はこのことについて書いていきます。

語学力は大前提

語学力は関係ないとはよく言いますが、これ、本当でもあり、嘘でもあります。

英語ができる→英語を使った仕事がやりたい→翻訳やりたい

って発想の方は多いですが、志望者は大抵皆最初から英語ができるし、英語好きな場合がほとんどです。

翻訳をやりたい場合、またはやっている場合、英語ができるから結果的にTOEIC900程度あるのは普通のことです。TOEIC900あるから翻訳やるのではありません

ただ、語彙が10万語必要で、映画やドラマもネイティブレベルで聞き取れて…っていうのは必要ないです。語彙は調べれば良いですし、仕事をする中で身に付きます。文法も小難しいことは知らなくても良いというか、ネイティブですら好き好んで使わないイディオムを覚える必要もありません。

でも、たまに迷ったときなんかに高校英語以上に詳しい下のような文法書は一冊手元に置いておくと便利です。

ネイティブ感覚の文法知識を身に付けたいならマーフィーがおすすめ。これ日本語テキストでしか勉強したことない人は意外と目から鱗な知識が多いです。

技術系の英語ならこの辺りを要チェック。上は分厚いですが、下は薄いのに結構勘違いしがちなところがよくまとまっています。

超重要な内容理解と調査力

内容についての調査

翻訳って、専門分野は決めますけど、例えば医薬やりますといったところで文書によってもスタイルは変わってきますし、医薬と一口にいっても、医療機器も薬もありますし、もしかすると医療従事者向けのマニュアルなのかもしれません。

技術翻訳だと元大手メーカー勤め等の研究者が有利だと思われがちですが、こういった方たちも専門領域ってごくごく狭い範囲なので、万能なわけではありませんから「文系だから~」とか関係ありません。

翻訳会社も基本的に顧客に偏りがあって狭~い専門分野ドンピシャの仕事が来る確率って低いので、基本的にはその都度調査が必要となってきます。同じような案件が継続して来ることもありますけど、これはこれでマンネリになりますね(笑)

じゃあこの調査力ってどうやって身に付けるかっていうと、もちろん一石二鳥にはいきませんが、少なくとも内容を理解しないとどこをどう調べれば良いか分からないはずです。

これを解消するには実際に翻訳をどんどんやるのが一番良いです。業務をこなす中で分からない単語はしらみつぶしに調べたり、類似の文章を多数読み込んで勉強していけば「この部分を調べればこの文書は理解できそう」っていう勘所ができてくるので自然と力は付いてきます

これって人に教われる部分ではないですし、下の論理的思考力とも密接に関わりのある部分なので、学校の勉強でいえば教師がいないけど教科書を自分で理解できるまで読み込むような努力に伴う力ともいえます。

納期に余裕があってその分野の基礎レベルもちょっと怪しいなら、体系だった知識を得るためには専門書を買うのも良いですし、意外と分かりやすい論文や解説サイトなんかもネット上に転がっているのでそれで事足りることもあります。

検索テクニック

単なる検索テクニックに関しては、下のサイトに記載されているようなものがあります。基本的なことだと思いますが、Anyaも昔知った頃は目から鱗でした。ご存知ない方は下のサイトを読んでみてくださいね。

卵は1つの籠に盛るな

他にもGoogleを活用する方法を一度確認しておくと役に立ちます!

翻訳者に必要な文章力とは

外国語は母語を超えない

ちょっと翻訳とは関係ない話ですが、子どもを英語塾に幼少期から通わせるだけでペラペラになると思ってる方いますよね。

なるかもしれませんけど、第一言語はあくまで日本語という環境で育ったとしましょう。

外国語をいくらやったとしても第一言語の能力を超えることはありません。これ言語習得の常識。あの有名なロシア語通訳者である米原万里さんもエッセイに書いていました。

彼女は作家でもあり、下の代表作は小説としても最高に面白いのでおすすめです。旧ソ連についても興味が持てる作品ですが重くはありません。

脱線しましたが、日本語の話に戻すと、第一言語の日本語の語彙が乏しいとそれ以上は外国語が入ってきませんし、表現力が乏しいならそれ以上のことを外国語でも書けません。

結局のところ、脳のOSバージョンはWindows 95レベルなのに特定のソフトだけWindows 10にできるかって話です。そのため、翻訳をやりたいなら母語の能力を伸ばすってとても大切です。

日本では和英翻訳者も日本人がやっているケースが多いですが、欧米言語間で翻訳をやる場合、例えば国連会議通訳者を多く輩出しているパリの通訳翻訳の専門学校では通訳翻訳を学ぶ際の訳方向を非母語→母語に限定しています。海外の翻訳会社も母語に訳すことを条件として募集している企業が多いです。確かに外国語ペラペラな人は大勢いるけれど、勉強では到達できない部分ってありますからね。

和英翻訳の場合、なぜ日本人が多くやっているかというと、

  1. 日本人の多くがきちんと文章を書く技術を教わっていないことや省略しやすい言語であることから、原文品質が低めで、外国人が訳すと誤解が多い
  2. 日本語はもう海外で流行っていないので、習得済みで和英翻訳やりたい非日本人が少ない

という2点が推測されます。

必要なのは「適当な文章」を書ける力

よく誤解されていますが、文章力というのは、小説のような美しい文章が書けるかどうかではありません

小説や映画・ドラマ、コピーライティングや編集能力も必要となるパンフレット類を翻訳したい場合はまた別ですが、ここではIT、法律、マニュアル、特許等の産業分野について書きます。

「らしい」文書のスタイル

まずは、翻訳する文書「らしい」文章を書けることは意外と大切。慣れてしまえば常識レベルですが、例えば、基本的な部分だと「ですます調かである調か」なんてのは前提知識なので改めて指示されることも少ないです。

その他にも句読点だけ半角だの、全部全角だの、業界特有の特定の文章に求められるスタイルや細かいルールというものがあります。

このレベルの知識がないのはド素人ですと言ってるようなものですね。

こういうことに関してはお高い割に内容の薄い講座が得意とするところですが、正直、翻訳例をいくつも見れば分かることです。契約書にしろ特許にしろマニュアルにしろ、その辺にサンプルはごろごろしていますし、書籍にもそういった基本的なことについては大体記載があります。

明瞭な文章

明瞭な文章を書けるかどうかは本当に大事。これ簡単そうで意外とできていない人も多いです。

よくありがちなのは係りが不明瞭なケース。一文が半ページにわたる場合なんかは、分かりづらいですね。

しゃぶしゃぶは、冬になるとよく食べられ、豚肉と野菜をさっとゆがいて食べる日本の鍋料理です。

という文章があったとしましょう。さて、これ理解はすぐできますよね?でも2通りに分解できます。

  1. しゃぶしゃぶは、「冬になるとよく食べられ、豚肉と野菜をさっとゆがいて食べる日本の鍋料理」です。
  2. しゃぶしゃぶは、「冬になるとよく食べられ」、「豚肉と野菜をさっとゆがいて食べる日本の鍋料理」です。

「日本の鍋料理」はどこまで係るのかがあいまいなんです。どちらでも文意に大差ないなという場合は良いんですけど、専門的な文書だと中身が分かってないとこれを適当にやっちゃってとんでもない誤訳につながっている例は結構あります

ついでの話をすると、原文でもこういう数通りにとれる構造の文章なんていくらでもあります。どの案件でも大体あるかな…。

用語レベルの誤訳で化学系文書でたまに見るのがコレ。

nitrogen containing material

さて、どう訳しますか?超特殊な文脈でない限り普通は「窒素含有材料」なんですが「材料を含有する窒素」とやっちゃう人がいます。超未来の技術か何かかな?(笑)

これやっちゃうと化学知識中学レベル以下やんけ!と思われておかしくないですし、少なくとも文章の内容読んでないなというのはモロバレなので仕事来なくなってもおかしくないです

確かに教科書なら「nitrogen-containing-material」なんてご丁寧にハイフンでつないでくれますが、こんな正書法無視しまくりなのはアメリカ人にもイギリス人にも大勢います。完璧な英語が書かれた原文なんてほぼありません。

日本人は小説の主人公の心情読み取りについてはだらだら教えられる割に(あれって国語というより半洗脳では…?)文章の書き方をきちんと教わる機会がない上、省略が容易な文法体系のため、意味不明な日本語原文というのも結構あります。こういう妙な原文をどう正しく翻訳できるかは翻訳者の腕の見せ所。実際は確認してヤバそうなら引き受けませんが。

係りが分かりづらい日本語の面白い例にこんなのがあります。

にせ狸汁

という架空の単語、これよくよく考えると「狸」が偽なのか、「狸汁」が偽なのかは明示されていません。

種明かししちゃうと、「にせだぬきじる」と発音するのであれば「狸」が偽物、「にせたぬきじる」なら「狸汁」が偽物です。日本語、実は音で係りが分かるようになってるんですね~。面白いでしょ?

話を戻しますと、要は言語学者や翻訳者でもないとこういうことは普段意識してないので、気を付けないと意味が何通りにもとれる不明瞭な訳文の一丁あがり!というわけです。

この辺に関しては、本を読んで対策を知るのが最初の対策となりますが、あとは実地訓練あるのみ。下の本多勝一さんの著書なんかは鉄板です。

論理的思考力

こう書くと小難しそうですが、単純に原文を理解できた上で、それを的確に日本語にできるかという話です。

例えば、これは低レベルな誤訳の例ですが、以前VODで観ていたとあるドラマで「last resort」を「最後の楽園」と誤訳されていました。

このシーンは、サスペンス系ドラマで横領に手を染めた人物がFBIに狙われており、逃げるにはこれしかないって状況。ある意味「最後の楽園」かもしれませんけど、ホスピスかよ?!当然、正解は「最後の手段」です

この字幕はおかしい!間違ってる!と最近では文句を言われることが多くなりましたが、「この翻訳者、このレベルの慣用句も知らないなんて…ププ」とバカにする前に、翻訳者を目指すなら「自分は他でも絶対間違わずにやれるのか?」「なぜこの人は間違ったのか?」、きちんと考えるようにしてください

皆さん、これが普通のドラマでなく医療ドラマだったら?医療用語間違わずに全部訳せます?説明の多いDr.HOUSEとか結構難しいと思いますよ(Amazonプライムで全部見られます。主役Hugh Laurieはイギリス人なのに、アメリカ人を騙せるほど完璧なアメリカ英語を習得しているのがお見事)。

単純な誤訳というのは、論理的思考力を働かせず、文脈が分かってないから起きることです

翻訳の仕事をするにあたって毎回自分の専門の仕事が来ることはほぼありません。上記の調査力もとても重要ですが、きちんと調査した上で論理的に考え、この文脈でこの訳語は適切か?というのは常に考えながら訳す必要があります。英語を日本語に、またはその逆を単純にやればいいと思っている人はそれは翻訳ではなく置き換えなので要注意

他にも、非ネイティブが書いたものや第3言語から英語に訳した英語原文も意外と多いので、「文法無視されてる…」なんてものも稀にあります。こういうときは文脈から自分で意味を推測して訳さないとだめなことも…。

幸いAnyaは主な欧州言語は全部やったことがあるので、語順が狂ってるけどドイツ人が書いてるようだから動詞がここに来てるんだな、とか、これは元がフランス語だから仏英辞書引いておくか、とか検討がつくので楽です。そういう意味では英語以外もいろいろやっておいて損はありませんが、あまりにひどい文だとたまに創作しないといけないので文脈を論理的に理解できているかっていうのは超重要!

それに、たいていの場合理解が中途半端だったり、分かったつもりになっているけど分かっていないことも原因。こういう判断ミスに関しては、この本が結構おすすめ。

よく誤解されますが、プロの翻訳者だからといって語彙が半端なくあるわけではありません。広辞苑や類語辞典だって使います(翻訳やるならPCソフトの辞書買ってくださいね)。

まとめ

今回は、特に技術系の翻訳者に必要となる能力をまとめてみました。いかがでしたか?

Anyaは翻訳って語学力がキモだとは思っていません。

それより上に挙げた他の内容理解についての方がよっぽど重要です。英語を使った仕事に憧れを持っている方の話を聞いていると、妙にキラキラしたイメージを持たれていますが、英語は日常と化してしまうので、キラキラなんてしていませんし超地味な引きこもり生活です(笑)

ただ色んなことに興味があり、知的好奇心が強い方には最適な仕事です。ここまで読んで、やっぱり翻訳者面白そうだなと思う方はぜひ頑張ってくださいね。